「あぁ、今日も怒ってしまった」
「言いすぎた…反省…」
認知症の親の介護をしていると、穏やかに過ごせる日のほうが少ないと感じることはありませんか?
自分の時間が取れず、疲れやストレスが溜まります。
頭では病気のせいだとわかっているけれど「さっき言ったのに!」と怒ってしまうのです。
意外かもしれませんが、認知症の介護は知識を活かすことで、認知症の症状を軽減することができます。
この記事では認知症の親の介護でイライラするときにできる3つのステップをご紹介いたします。
どのようなかかわり方をすると、認知症の症状軽減に役立つかもご解説いたします。
どうぞ最後まで、おつきあいください。
介護でイライラするときにできる3つのステップ
イライラするときにぜひ思い出していただきたい3ステップは以下のとおりです。
- 6秒がポイントのアンガーマネージメント
- 物理的な距離を取る
- 楽しかった瞬間を思い出す
ひとつずつご解説してまいります。
①6秒がポイントのアンガーマネージメント
「アンガーマネージメント」という言葉をご存じでしょうか?
日本語にすると「怒りを管理する」という意味です。
人間の脳は怒りを感じると、アドレナリンを大量に分泌します。
このアドレナリンが放出されるピークが、イラっときてから6秒なのです。
この6秒さえのりきれば、強い口調で親を責めたり、傷つけることを避けられます。
②物理的な距離をとる
無言で置き去りにすると、認知症の親が不穏になります。
「〇〇の用事があるから、ちょっとあっちの部屋にいるね」などのひとことをそえる方法が有効です。
物理的な距離を取り、親と自分のあいだにある空間を意識します。
親が少しの時間落ち着いて過ごせそうなら、自分の部屋にこもるのもおすすめです。
イライラがどうにもならないときは、意識して離れます。
③楽しかった瞬間を思い出す
気持ちを切りかえるアイテムを決めておくと、さっと対応できるのでおすすめです。
いくつかあげてみます。
- 大好きな推しの写真や動画を見る
- お気に入りの音楽をイヤフォンで聞く
- 楽しい思い出の写真をアルバムにしておき見返す
- 気分が上がる香りのアロマオイルを使う
- 人生で一番楽しかった瞬間を思い出す
人にもよりますがイライラしたときに、親が元気だったときの楽しかった思い出を振り返ることで気持ちを切りかえるという手もあります。
以上が親の言葉や行動にイライラするときにできる3ステップです。
3つのステップを試したけど、まだイライラがおさまらないことがあるかもしれません。
個人的におすすめなのは、保冷剤をタオルに巻いて首の後ろを冷やす方法です。
脳の中の血流の温度が変わるほどの効果はありませんが、暑いときは特に首の後ろを冷やすことで、リラックスしやすくなります。
時間があるときは、イライラを紙に書きまくるのがおすすめです。
親のどういう言葉や行動にイライラしたのか、イライラしたのは具体的にどういう気持ちが原因なのか、どれぐらい腹が立ったのかを書きます。
書くことで、頭の中が整理されます。
「こんな理由があるんだから、自分が怒るのもムリはない」と、自分が感じた気持ちを肯定的に受けとめるのがポイントです。
紙に書くことが手間なら、スマートフォンに打ち込みまくるのもいいでしょう。
書いたものを視覚をとおして、頭に入れることで冷静になれます。
認知症の理解を深めて介護に役立てよう
認知症の症状は大きく2つに分けられます。
- 中核症状
- 周辺症状
上の図を見ていただくとわかりますが、脳細胞の問題で生じる症状が「中核症状」です。
そこに親の元々の性格や素質が合わさり「周辺症状」となります。
「ここがポイント」と黄色でハイライトしている部分が大切です。
環境や心理状態も周辺症状を左右する要因になります。
介護をするときのかかわり方で、周辺症状を緩和することができるんです。
すでに親御さんの認知症と向き合ってこられた方は、十分実感されているかもしれません。
介護のときにこちらがイライラしながらかかわると、親の精神状態も不安定になるのを経験されているのではないでしょうか?
周辺症状を和らげるのにこんな言葉かけを意識してみてください。
✕「そんなやり方じゃダメ」
↓
◯「こうやってみたらどう?」
✕「これはやらないで」
↓
◯「こっち手伝ってくれない?」
◯「助かった。ありがとう!」
否定するよりも、提案するよう心がけるのがポイントです。
たとえうまくできていなくても、協力してくれたことを感謝されると当人は喜びを感じます。
目線を合わせて名前を呼ぶと、コミュニケーションがとりやすくなるので会話のときにとり入れてみてください。
「はい」「いいえ」で答えられる質問を使うと、当人の混乱を軽減でき、周辺症状を和らげるのに効果的です。
「これにする?あれにする?」と選択肢を出して、自分で決定できるようにすることも自尊心につながります。
言葉かけは認知症と戦う当人の心理状態を、良くも悪くも左右するものです。
自尊心を保てる環境は、当人にとって居心地のよい場所になります。
このように介護者のかかわりで、上の図にあった「環境・心理状態」を改善することが可能です。
「環境・心理状態」が良好であれば、周辺症状の軽減につながります。
周辺症状が落ち着くと介護者のイライラも和らげるという、ポジティブなスパイラルに持ち込む秘訣です。
もちろん周辺症状の中にはどんなにうまくかかわっても、中核症状がベースにあるので改善できないものもあります。
周辺症状が強いと感じても、あなたのせいではありません。
どうかご自分を責めないでください。
つづく部分で、中核症状と周辺症状についてご解説してまいります。
認知症の「中核症状」は脳の障害から直接起こる症状
中核症状として以下の障害をとりあげます。
- 記憶障害
- 見当識障害
- 理解・判断力の障害
- 実行力障害
記憶障害
人間の記憶には脳の「海馬」という部分がかかわっています。
認知症になると、海馬に新しい情報を保存できません。
認知症が進行していくと海馬の脳細胞も障害されて、過去の記憶を維持することが難しくなります。
見当識障害
見当識とは日付や曜日・場所など自分の現在の状況を認識する能力です。
見当識障害は3つに分けて考えられます。
- 時間・日付・季節がわからない
- 今自分のいる場所がわからない
- 友人・親戚・家族がわからなくなる
認知症の進行とともに時間や季節の感覚があやしくなります。
暑いのにセーターを着て、脱がせようとすると拒否するなどの反応です。
場所がわからなくなると、散歩に出て帰れなくなります。
昼間は迷子にならなくても、暗くなると見えるものが少なく迷子になるケースなどです。
昼間は困らないのに、夜になるとトイレがわからなくなるのも場所の見当識障害によります。
見当識の中で最後に失われるのが、友人・親戚の記憶です。
すでに亡くなった家族のことをまだ生きていると言ったり、息子をお父さんと思い込むなどの症状が見られます。
見当識障害は記憶障害と同じく認知症の早期にあらわれます。
理解・判断力の障害
脳の障害により、考えるスピードが遅くなります。
同時に2つのことを言われると、わからなくなるのも特徴です。
不慣れな環境に適応することが難しいケースもあります。
駅の自動改札の通り方がわからなくなったり、ATMの使い方がわからなくなるのも理解力の低下が原因です。
実行力障害
実行力障害とは計画を立て、それを遂行する能力が障害されることです。
例えば「今日はデイサービスの日」とわかっていても、顔を洗って着替え、朝ごはんを食べて荷物をまとめて…が難しくなります。
料理も献立を考えて食材を買いに行き、計画どおりに食材を使って調理するという複雑な作業です。
理解力の障害と合わさって実行力も低下すると、日常生活に支障をきたし、介助が必要になります。
認知症の「周辺症状」は中核症状にプラスされる症状
周辺症状には以下の症状が含まれます。
- 不安・あせり
- うつ状態
- 幻覚・妄想
- 徘徊
- 興奮・暴力
- 不潔行為
- せん妄
不安・あせり
ひとりになると不安そうにしたり、できないことが増えるとあせりを感じます。
不安の原因を理解し、共感したり話を聞くことで落ち着きを取り戻しやすくなります。
認知症の初期の記憶は「まだら」と表現されるように、突然全てがわからなくなるのではありません。
わかるときもあれば、わからないときもあります。
わからないときがあるという自覚は、当人の自信を失わせ自尊心を奪うものです。
「何もわからなくなってしまった」というときには、できていることを伝えて安心できるように声かけします。
意欲の低下・無関心も、周辺症状として現れることがあります。
ゆっくり話しかけたり、そばにいることが効果的です。
幻覚・妄想
幻覚とは実在しないものが、そこにあるかのように見える症状です。
当人にとってはリアルなので、否定せず安心できるようにサポートします。
妄想は「物盗られ妄想」という形で現れることが多い症状です。
当人に置き忘れた記憶がないので、身近な介護者に疑いの目が向けられます。
介護をしている側にとって、大きなストレスの原因ともなる症状です。
置き場所を決めてわかりやすく書いておく、イラストを貼るなどの対策をしてみる方法があります。
しかし中核症状の「記憶障害」がおおもとの原因です。
いつ・どこに・何をしまったかを忘れてしまうので、対策を打ってもカバーしきれないこともあります。
疑われるとイライラするのは当然です。
あなたの気持ちが落ち着いたら、いっしょに探してあげてください。
徘徊
徘徊は不安・寂しさなどが原因で、たえず歩きまわる症状です。
夕方から夜にかけて、症状が強く出ることもあります。
不安の原因を聴きながらしばらく一緒に歩き、他の作業に気をそらすことが役立つかもしれません。
興奮・暴力
興奮・暴力は感情をおさえられなくなることによって現れる症状です。
認知症の進行により言葉がうまく出てこないことで、いらだちを抱えている場合があります。
自分の感情を周りに理解してもらえないという、不満も原因のひとつです。
いらだちや不満をかかえ、当人は不安と恐怖感にさいなまれている可能性もあります。
どんなときに興奮・暴力の症状がでやすいか観察し、不安の原因を取り除くことが大切です。
暴力行為が出た場合には、離れて見守り自分の安全を確保してください。
興奮・暴力は、主治医によく相談することをおすすめします。
不潔行為
不潔行為は、おしめをはずしたり便をあちこちに擦り付けたりする症状です。
おしめの不快感・羞恥心・理解力の障害によっておこります。
特に便を寝具や壁につける、弄便(ろうべん)が介護者にとって大きな負担です。
便に対する理解力の低下が原因なので、介護者が怒ると当人は怒られた理由が理解できません。
イライラを通り越して絶望感しかありませんが、心を無にしてなるべく平静を保って対応するのが一番です。
せん妄
せん妄とは意識がぼんやりしたり、混乱した状態のことです。
妄想と似た言葉なので、ややこしいかもしれません。
妄想は強い思い込みで、せん妄は時間や場所がわからなくなって現れる精神症状を指します。
体調不良・薬の影響・環境の変化・便秘・脱水などが引き金となる場合があります。
異変に気づいたら、主治医に相談するのが最善です。
認知症のタイプからイライラしにくいかかわり方を知る
認知症にはいくつかのタイプがあります。
ここでは日本で多い、4つの認知症についてとりあげます。
- アルツハイマー型認知症
- 脳血管型認知症
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭型認知症
アルツハイマー型認知症は記憶障害の進行が特徴
アルツハイマー型認知症は記憶障害・理解力の低下・実行力の低下が特徴です。
緩やかに進行していきます。
アルツハイマー型認知症の初期は、すぐ忘れ新しいことが覚えられません。見当識障害も見られます。
短い文章で会話すること・繰り返し伝える必要があることを介護者が意識することがイライラを軽減するカギです。
アルツハイマー型認知症が進行していくと、近い時期の記憶からなくなります。
徘徊や失禁はこの時期、介護負担が大きくなる原因です。
小型のGPSを活用したり、トイレへ決まった時間に誘導することで対応できます。
デイサービスなどで、家族以外の人と接することは良い刺激です。
残された記憶でできることもあるので、洗濯物をたたむなどのシンプルな家事を頼むことで自尊心の維持につなげることができます。
自分でできることを任せて見守るというのは、周辺症状を緩和し介護に手がかかる時期を遅らせるのに有効です。
だんだんできることが少なくなるのは、当人にとっても介護者にとってもつらい時期です。
思い出話をしたり一緒に写真を見たりして、穏やかに過ごせる環境を意識すると不安を軽減できます。
脳血管型認知症は症状が限定的なのが特徴
脳血管型認知症の初期は、うつ状態・不眠・不安が特徴です。
小さな脳梗塞を繰り返すことで症状が進行していきます。
アルツハイマー型認知症は脳全体で障害が起こるのに対し、脳血管型認知症は血管が詰まって機能しなくなった脳細胞だけが障害を起こすのが違いです。
脳の機能が残る部分があるので、判断力が比較的保たれるケースもあります。
認知症の進行と同時に体が動かなくなる・嚥下障害が起こる場合がほとんどです。
精神的サポートに加え、身体的介護が必要になります。
介護する側にとっては体力・精神力を同時に必要とするタイプの認知症です。
誰でも疲労がたまると、それだけでイライラします。
手すりやポータブルトイレといった福祉用具を活用して、生活環境を整備するのがおすすめです。
デイサービスなどの利用で、あなたが介護から離れられる時間を確保することも、イライラを軽減するのに役立ちます。
レビー小体型認知症は妄想・幻視が多いのが特徴
レビー小体型認知症は、幻視・幻聴・妄想・動作が遅くなるというのが特徴です。
レビー小体型認知症は、認知症の症状に変動があります。
会話が成立することもあれば、無関心・無反応の症状が強いなどです。
物盗られ妄想や被害妄想、配偶者の浮気を疑うなどの訴えは介護者にとってイライラの原因になります。
妄想を否定すると当人のネガティブな感情が強くなりがちです。
妄想を訴える場合は、否定も肯定もせずそのままオウム返しのように言葉を繰り返す方法が効果的です。
レビー小体型認知症が進行するにつれ体が動かしにくくなり、動作がゆっくりになるので転倒しやすくなります。
早期からデイケアでリハビリをしたり、訪問リハビリなどの介護サービスを利用するのがおすすめです。
前頭側頭型認知症(ピック病)は行動障害が特徴
前頭側頭型認知症は人格変化・行動障害・言葉の出にくさ・運動障害などの症状が特徴です。
行動障害には、毎日決まった時間に同じ行動を繰り返す「常同行動」、万引きなどの自己本位な行動、集中力の低下、過食が含まれます。
人格変化により親が別人のようになるため、介護者にとっては精神的ダメージが大きいのが特徴です。
行動障害のため散歩に出て、無銭飲食をしてしまうなどの問題行動につながるケースがあります。
デイサービスやショートステイなどを活用することが有効です。
問題行動につながりやすい状況を減らすことで、トラブルを避けることができます。
当人がサービスの利用に慣れると行動障害が軽減するので、早期から積極的に介護サービスを活用するのがおすすめです。
認知症の介護は介護疲れになりやすい
理学療法士として認知症のご家族の様子を見ていると、一生懸命になりすぎないことが介護を続けるコツのように見受けます。
ぜひ以下の4つを認知症の親御さんの介護に役立ててください。
- 無理をしない
- 認知症の進行に合わせて介護サービスを見直す
- 介護から離れられるよう自分の時間をとる
- 自分の健康を大切にし十分な睡眠をとる
精神的にも身体的にも負担が大きいのが、認知症の介護です。
共倒れを避けるためにケアマネージャーに相談したり、認知症サポーターをご活用ください。
認知症の家族を介護する大変さを、理解してくれる人に相談することも大切です。
介護疲れをため込まず、こまめにリフレッシュすることを意識しましょう。
まとめ:親の介護でイライラするときにできる3ステップと役立つ認知症の知識
この記事では介護でイライラするときにできる3つのステップをご紹介しました。
- 6秒がポイントのアンガーマネージメント
- 物理的な距離を取る
- 楽しかった瞬間を思い出す
認知症の知識を介護に役立ていただけるよう、具体的な言葉かけの方法についてもお伝えしました。
親が認知症になり介護が始まると、生活が介護中心になります。
予想外のトラブル対応に追われるのも、認知症介護の特徴です。
あなたがイライラするのは、当然の反応だということを忘れないでください。
利用できる介護サービスを可能な限り活用して、親御さんとの穏やかな時間が増やせますように。
この記事の情報が介護を続ける上で、お役に立ちましたら幸いです。
親の介護がつらいときは、こちらの記事もご参照ください。
親の介護で「介護うつ」?こちらの記事もおすすめです。
在宅介護の限界を見極めるポイントについては、こちらの記事をご参照ください。
介護者のセルフケアについては、こちらの記事をご参照ください。