「ヤングケアラー」ということばを聞かれたことがおありでしょうか?
テレビで特集が組まれるなどして、少しずつ認識や理解が広がってきています。
そもそもヤングケアラーとは、どういったケースを指すのでしょうか?
ヤングケアラーが抱える独特の問題には何があるか、ヤングケアラーの支援が難しい理由についてとり上げます。
ご一緒にヤングケアラーについての理解を深め、もし身近にヤングケアラーをしているケースがあれば、わたしたちにできることを考えてみましょう。
そもそもヤングケアラーとは
一般社団法人日本ケアラー連盟によれば、ヤングケアラーとは以下のようなケースを指します。
「家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている18歳未満の子ども」
未就学の子どもであっても、親や祖父母の身の回りの世話を介助していたり、
障害のある兄弟姉妹のお世話を手伝っている子どもたちはすでにヤングケアラーに含まれます。
令和2年度の厚生労働省の調査では調査に参加した中学校の46.6%、全日制高校の49.8%にヤングケアラーが「いる」という結果になっています。(参考文献1)
なぜ今ヤングケアラーが増えているのか?
祖父母の介護をしているヤングケアラーが増加している理由として、共働き世帯が増えていること、長生きする高齢者が多くなっていることがあげられます。
また高齢出産により、子どもが成人になる前に親が要介護状態になるのも理由のひとつです。
日本でヤングケアラーの存在が認識されたのは、2015年頃です。
全国の小中学校や特別支援学校でアンケート調査が行われた結果、ヤングケアラーの存在が認識されるようになりました。
ヤングケアラーの存在と理解が深まることで社会問題として認知度が上がり、ヤングケアラーとして数えられるケースが増えているのも増加の理由です。
ヤングケアラーは具体的に何をしている?
ヤングケアラーの担っている負担は、家事のお手伝いではありません。
例えば以下の様なことを日常的にこなしています。
- 家事…料理・洗濯・掃除・片付け
- 要介護者の身の回りの世話…トイレ介助・車いすへの乗り移り・移動介助・歩行介助・入浴介助・着替えの介助
- 声かけ・見守り…食事の見守り・薬の内服の確認・感情面でのサポート
介護を必要としているのが兄弟姉妹であれば、親の代わりにお世話をしたり見守りをしています。
介助を必要とするのが親であれば、買い物の付き添い・金銭管理・通院の付き添いが必要です。
高校生になっていればアルバイトをして経済面での責任を担っているヤングケアラーもいます。
ヤングケアラーの抱える問題と課題
「ヤングケアラー」に該当する子どもたちは年齢の幅があり、抱える問題も様々です。
この部分では、小学生と大学生の抱える問題と課題をそれぞれとりあげます。
ヤングケアラーが小学生の場合に直面する問題と課題
家族の事情により子どもたちは、ヤングケアラーの立場に置かれます。
その年令では背負いきれない重い責任や負担を任されるのです。
子供らしいのびのびとした生活や、成長の機会が奪われるケースが跡を絶ちません。
本来なら大人がすべき家事や家族の介護に追われることで、子どもとしての権利を奪われかねないのです。
ヤングケアラーの中には健康面での不安を抱えているケースもあります。
以下は、日本総研の「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」による調査の引用です。(参考資料2)
小学生のうち世話をしている家族がいると回答した人は、
・健康状態が「よくない・あまりよくない」
・遅刻や早退を「たまにする・よくする」
と回答する割合が、世話をしている家族がいない人よりも2倍前後高くなっている。
家族の世話をしている人は、学校生活において
・「授業中に寝てしまうことが多い」
・「宿題ができていないことが多い」
・「持ち物の忘れ物が多い」
・「提出物を出すのが遅れることが多い」
といった項目について該当する割合が、いずれも世話をしていない人の2倍前後となっている。
・世話に費やす時間が長時間になるほど、学校生活等への影響が大きく、本人の負担感も重くなることが確認された。
ヤングケアラーが小学生の場合、自分や家族の状況がふつうとは違うことに気づかないことがあります。
家族の世話や身の回りの介助をすることが当たり前になるからです。
親や祖父母の身の回りの世話をすることそのものが、子供の成長を妨げるわけではありません。
子どもたちは困っている人を進んで助け、手を差し伸べられる優しさを身につけていきます。
しかし家事・介護の役割が子どもに集中し、子供らしい生活が送れないのは問題です。
その年令では負いきれない負担を抱え、体の不調・学校生活への支障をきたしています。
子どもたちが自ら「助けてほしい」と声を上げるのを待っていては介入が遅れる可能性があります。
子どもたち自身が自分の大変さを自覚できていないケースがあるからです。
周囲の大人が子どもたちと良い関係を築き、子どもたちの変化や様子に敏感であることが大切です。
なんとなく違和感を感じたら大人が、必要な支援に繋げられるようヤングケアラーをサポートしていく必要があります。
大学生のヤングケアラーが直面する問題と課題
大学生は学生から社会人ヘの準備をする過渡期にいます。
大学生のヤングケアラーについても、日本総研の「ヤングケアラーの実態に関する調査研究」による調査を引用させていただきました。
自分の生活について健康状態が「あまりよくない」「よくない」と感じ、欠席、遅刻・早退が「たまにある」「ある」の割合が高くなっている。
学習・趣味・娯楽・交友のための時間の確保が難しい
・大学の授業の受講(ゼミ含む)
・大学の授業の予習復習、課題に取り組む時間
・部活・サークル
・アルバイト・仕事
また悩みとして、次のような点が挙げられていました。
・学費(授業料)など学校生活に必要なお金のこと
・家庭の経済的状況
・自分と家族との関係
・家庭内の人間関係
・病気や障がいのある家族のこと
小学生のヤングケアラーが抱える問題に加え、幅広い悩み・葛藤があることがうかがえます。
大学生になると自分の置かれている状況が把握できるため、家族のためにあきらめたものがあること、就職に対する不安、精神的なつらさの自覚といった、深刻な問題が特徴的です。
小学生のヤングケアラーに対し、大学生ヤングケアラーはひとり親家庭で、ひとりで世話全般を担っている傾向が強いこともわかります。
求めている支援としては、順に以下の点があげられていました
①進路や就職など将来の相談にのってほしい
②学費への支援・奨学金等
③自由に使える時間がほしい
今後ヤングケアラーについてのより詳しい実態が把握され、適切な支援が受けられるようになることが課題です。
誰でも介護に疲れることがあります。そんなときはこちらの記事もおすすめです。
ヤングケアラーの実態を把握することの難しさ
ヤングケアラーが大きな負担を強いられているにも関わらず、社会問題としての取り組みが難しいのはなぜかを考えます。
ヤングケアラーについての認識にばらつきがある
小学校では教職員の「ヤングケアラー」について理解し・把握は進みつつあります。
一方で、一般国民調査では以下のような結果が出ました。(参考文献2)
- 年代、性別、子どもの有無によって認知度の傾向が異なる
- 50代以上の女性の認知度が最も高く、年代が若くなるほど認知度は下がる
- 男性の方が全般的に認知度が低い
- 子どもの有無では、子どものいる人の方が認知度が高い
わたしたちもヤングケアラーに関する理解を深め、相談しやすい環境づくりに役立てればと思います。
家庭内の問題であるがゆえに実態を把握しづらい
ヤングケアラーの実態を把握することが難しい別の理由は、家庭内のプライベートな問題であるという点です。
さらには本人や家族に自覚がないために、支援が必要であったとしても、表面化しにくいという面もあります。
ヤングケアラーに対する支援を知る
令和4年度予算に「ヤングケアラー支援体制強化事業」が組み込まれています。
これから少しずつヤングケアラーについての理解が深まり、サポートが受けやすくなっていくはずです。
もしあなたがヤングケアラーなら
ぜひこのホームページを読んでみてください。
メールでも相談できます。
ヤングケアラーをサポートする相談窓口
生活困窮に関する相談について 「自立相談支援機関 全国相談窓口一覧」
お金、仕事、住宅など、生活に関するお悩みはこちらの窓口にご相談ください。なお、お住まいの窓口の連絡先がない場合は、都道府県、市区町村へお問い合わせください。
ヤングケアラー当事者・元当事者同士の交流会、家族会
ヤングケアラーは孤立しやすいといわれています。
同じ境遇にいる人と知り合うことで、悩みを共有し、理解を深めることができます。ぜひ情報をご活用ください。
様々な理由で家事、きょうだいの世話、家族の介護、感情的サポート、通訳等をしている(していた)子ども、若者たち(ヤングケアラー)のあつまりです。関西地域で活動しています。
「みんなねっとサロン」は、精神疾患をもつ人を身内にかかえる家族が集まる家族会の全国組織(全国精神保健福祉会連合会(みんなねっと))が運営する、WEB上で相談・情報交換を行うコミュニティサイトです。
障害者のきょうだいのためのサイトです。
家族のケアをしている中学生や高校生が集まるオンラインコミュニティ。毎月Zoom開催しています。大学生も参加しています。家族や友人との関係、勉強について気軽に話したり、オンライン部活や自習室などLINEで情報交換したり、みんなで遊びにいく計画もしています。
まとめ:ヤングケアラーとは?ヤングケアラーの抱える問題と原因を考察する
高齢化社会の日本では、介護の負担が年々増加する傾向にあります。
大人でも大変な介護を、状況もよくわからない子どもたちが担っていることを考えると心が痛みます。
子どもたちが子どもらしく生きられるように、大人が気づいて手を差し伸べていかなければならないと感じました。
もしまわりで「この子ヤングケアラーじゃない?」と感じる子に出会ったら、まずはその子の話を聞いてみることからはじめてみるのはいかがでしょうか?
すべての子どもたちは家族に守ってもらえ・甘えられ・ワガママが言える場所を必要としています。
心穏やかに過ごせる環境で子どもたちが成長できることを願いつつ、ヤングケアラーを見逃さないよういつも頭の片隅においておきたいと思いました。
介護で感じる複雑な感情については、こちらの記事がおすすめです。
親の介護でイライラする場合には、こちらの記事もおすすめです。
介護者のセルフケアについては、こちらの記事をご参照ください。
参考文献
参考文献1
三菱UFJリサーチ&コンサルティング
有益な情報の提供ならびに、ヤングケアラーについての惜しみない研究に御礼申し上げます。